密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 嵐の夜も私は仕事を終えるとあなたの元へ向かった。

 土砂降りの雨。

 重い荷物を背負ったような薄黒い雲から発射される雷という名の鋭い光線。


 あなたの姿もファンの姿もなかった。

 でも、帰った所で私の狭くてなにもない部屋は真っ暗だ。
 
 働き始めた頃は明かりをつけたまま出勤していたけど、それはそれで虚しくなった。

 帰宅した時、誰もいない部屋に灯っている明かりは虚しさを心のスクリーンに照らし出すから。照らし出された虚しさは壁を伝って天井から堕ち、古い畳の上を火の玉のように這いずり回る。



< 56 / 304 >

この作品をシェア

pagetop