密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 地面に叩きつけられた雨が私の安物のヒールとベージュのストッキングを濡らし続けている。

 私の頬も涙で濡れ続けている。傘なんてもう意味がない。


「私の帰る場所はここしかないのに。なんでいないのよ…」

 私がそう呟くと後ろから声がした。

「ここにいるよ。さあ一緒に帰ろう」

 振り返るとそこにあなたがいた。

 その声で土砂降りの雨のカーテンが開いた。幼い時から降り続いていた土砂降りの雨のカーテンが雲の隙間を縫う陽射しのように開いたのだ。



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