密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 私にとってそれは夢のような事で、まるで夢を見ているかのように大好きな翔吾の彼女になれた。


 翔吾はライブが終わって一人暮らしをしている部屋に帰ると一気に孤独感に襲われると言った。ライブで盛り上がれば盛り上がるほど、誰もいない音のない空間を孤独に感じる。

 私も和馬もその気持ちが手に取るようにわかった。


 そこから三人の同居生活が始まった。


 シックでレトロなマロンブラウンのマンション。

 駅から離れている分、家賃も若干安いし、すぐ側には並木通りや公園があって深呼吸できる、そんな環境。

 自然から遠退いて生活をしてきた私たち。

 小さなライブハウスにいると、時々、呼吸困難になる。特に翔吾のそれを補ってくれる環境を三人で探してこのマンションの八階へ辿り着いた。

 リビングの窓を開けると入り込んでくる風が忘れかけていた自然の大切さを思い起こさせてくれる。

 小鳥たちのお喋りが音符のように風に乗って聞こえてくる。生命の中にある私たちのかけがえのない命。




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