密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
そんな事を考えながらパン屋のドアを引くと『コロンカラン』と心地良いはずのベルの音が、このマインドを透かし見るように鳴った。
彼氏がいるのに今日もこうして元カレと会う。
でも余計な会話はしない。
謎解きの暗号のようなアイコンタクトもない。
私は銀色のトングでクロワッサンをトレーに乗せレジへ向かい、いつものようにお金を払う。
元カレはいつものように
「ありがとうございました」
と、夏の乾いた白いシャツのようにサラリと言う。
私は微笑むだけ。
ただそれだけ。それだけの関係。それだけで二人の関係は一線を越えている。