密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 それは、和馬のお母さんが青森から上京し、ここを訪れた時。

 和馬はお母さんに私を「彼女」だと、翔吾を「親友」だと紹介した。和馬が彼女だと言うのだから、そうしてあげたい。私は和馬の彼女のふりをした。

 翔吾も話を合わせ、和馬と私が恋人同士に見えるように然り気無く促した。


 和馬のお母さんは、お土産にと持ってきてくれた紅玉という品種のリンゴでアップルパイを作ってくれた。

 艶のあるリンゴとシナモンの香り。サクッとした生地に溢れるようなリンゴの甘酸っぱさ。

 私の母はキャリアウーマンで料理を全くと言ってもいいくらい作らない人だった。幼い頃から冷凍食品やレトルト。

 温めただけのおかずやご飯に母の温もりはなかったから、初めて母に抱き締められたような温もりを感じた。

 焼きたてのアップルパイは胸がジーンとするほど温かかった。




< 72 / 304 >

この作品をシェア

pagetop