密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 今、私が手に持っているブランドのバッグは佑介がくれたもの。

 ピンクゴールドのネックレスも腕にあるパールのブレスレットも佑介がくれたもの。

 佑介は浮気をする度に高価なエサをくれる。

 浮気相手の香水の匂いを誤魔化すように、私との将来を誤魔化すようにエサをくれる。

 それをなにも言えず、筋肉で押し上げた笑顔で受け取ってしまう私。オブラートで包まれた嘘を飲み込んでしまう私自身にも問題があると、身に染みるほどよくわかっている……。

 エサをもらって、もう浮気しないで、と流す涙は、うしろめたい背徳の味がするから。

 私は弄ばれている猫か、狭い水槽の中で死んだようにキラリと輝き浮かぶ金魚。

 瀕死状態の金魚ならやがて弄ばれている猫に水槽に手を突っ込まれ、それが致命傷となる。

 祐介は私の笑顔が好きだと言うけど、もう筋肉で押し上げた笑顔とはサヨナラしたい。

 自然に笑いたい。

 バッグに詰め込まれた偽りが重くて腕が痺れた。

 もらったアクセサリーの全てがメッキだったらいい。ファンデーションを剥がしながら落ちる涙のように、全てのメッキが今ここで剥がれ落ちてしまえばいい。



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