密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 女がいる。

 それに気づいたのは伊豆の温泉旅館『波吹雪』の貸切り露天風呂。

 心地よい湯に溺れる猫のようにじゃれ合っている最中、それを見つけた。優也の背中に赤い爪の痕があったのだ。

 赤いネイルの女の指が一瞬見えて、私は優也を奪われまいと背中にしがみつくように抱きついた。

 するとその指は幻想であったと言わんばかりに湯けむりへと消えた。事実という爪の痕だけを鮮明に残して。




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