密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 その瞬間、背中が『ゾクリ』と冷えた。

 まるで素足に氷を押し当てたかのように。それは医師にもわからない身体の変化を意味していた。


 私は天使なんかじゃない。

 牙を抜かれ、誇りを失った狼のように、ただ臆病で怖がりでなにも聞けないだけ。

 天使の羽なんていらない。
 
 悪魔のような黒い羽をください、と生暖かい布団の中で願ったから、私の背中に黒い羽が孵化したのだ。


 人という生き物の支配的で欲にまみれた生臭い節穴だらけの目には見える事のない黒い羽がしっとりと濡れるように艶やかに。



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