密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 黒い羽が孵化してから一ヶ月後───。


 私は六本木の高層ホテルで皮膚科医、宇崎の唇を吸った。

 宇崎は私の腕にあった無数の火傷の痕を綺麗に治してくれた。

 それは優也によってつけられた痕。

 数年前の優也は無性に気が荒く、常に苛々していて、喧嘩ばかりしていた。

 相手が格闘家でも真正面から武器も持たずに顔を晒して殴りかかった。

 喧嘩ならまだ良いが、覚醒剤を使用していた。人として最期に近い、炎で血が煮えたぎる地獄が見える場所にいた。

 地獄の入り口を隠すように橙色のケシの花が辺り一面に広がっている。広大な花畑。一輪一輪が美しく揺れて誘いをかける。

 ……こっちにくれば、覚醒剤よりラクになれる果実があるよ。リンゴのように赤いその果実をかじれば苦しみから解放される。綺麗な心を持った貴方には汚れに満ちた現実より、こっちの美しい世界がお似合いよ。


「待って!! そっちへ行っちゃいけない」




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