密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 路上で手足をばたつかせ、もがき苦しんでいた優也を私が拾い、ぎゅっと抱き締めた。

「覚醒剤だけはやめて。私、なんでもするから」

 優也が覚醒剤をやめられるように、優也が自殺しないように、私は自分の腕を差し出した。

 そこに赤黒い煙草の火を押しつけられたのだ。苛々する度に、のたうちまわるほどの禁断症状が出る度に何度も何度も。


 その時の私はまだ人の死に慣れていなかったし、救える命は救いたい。

「生きたくても生きられない人がいるんだから」と口が裂けなくても正しい事を言えた。

 痛いとか痒いという感覚は消えて、今、はっきりわかるのは疼くような快感だけ。

 私の感覚と引き換えに優也は、橙色のケシの花と、炎で血が煮えたぎる地獄が見える場所から遠退く事ができた。

 この先、優也が現実という厳しい世界で生きていけるかどうか、それは優也次第。




< 99 / 304 >

この作品をシェア

pagetop