花の名前
どれ位時間がたった頃だろうか?


それからすぐだった気もするし、ずいぶん長い間あそこに横たわっていた気もする。


「エリカちゃん」

呼びかけられても、あたしはその言葉を理解するまでに結構な時間がかかった。


「エリカちゃん」


エリカは、あたしの名前だ。


 だけど、あまりの気持ち悪さに、返事をすることもできない。


誰?あたしのことを呼ぶのは。


必死にまぶたを開けようとする。


その時、ふいに抱き上げられた。


驚いた拍子に、あんなに重かったまぶたが開いた。


その瞬間、あたしは、ほんとに気が狂ったのかと思った。


嬉しいとか、悲しいとか、そんな感情は思い出せなかった。


ただ、呆然としていた。


その目。


その顔。


見覚えがある。


忘れるわけない。


あたしの目の前に、トモがいた。


「大丈夫?」


あたしは、その声に抱かれて、だんだん意識が無くなっていくのがわかった。


あたしは、いよいよおかしくなったのかもしれない。


でも、確かに、その腕の感触は、トモだった。


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