花の名前
眩しい光が、まぶたの上をくすぐる。


現実のリアルな感覚が、次第に夢の中に入り込んできた。


左の手首が、ズキズキと痛む。


あたしは、怖かった。


目を開けてしまうことが。


いつもいつも。


現実に戻ることが、何より怖いことだった。


だけど、起きた。

この悲しみは、もうなれっこだった。


のどが、カラカラに乾いていた。


あたしは、ベッドの上にいた。


知らないベッドだ。


知らない布団。知らないカーテン。知らない家具。


だけど、この部屋は、どこか見覚えがあった。


フローリングの床。大きな窓。


ほぼ真四角の部屋。


それらを、一つ一つ見ているうちに、あたしはだんだんと思い出した。


身体を起こして、そっと床に足をつけてみる。


立つと、かなりの立ちくらみがした。


なんとか持ちこたえて、あたしは、迷わずキッチンの方へ向かった。


手首に、包帯が巻かれていた。


差し込んでくる朝の光の中で、真っ白い包帯が眩しかった。
< 23 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop