花の名前
あたしは、この部屋を知っていた。


このフローリングの感触も、入ってくる風のにおいも。


キッチンに続くドアを開けると、そこには慧太君がいた。


トモと同じ血が通っている、違う人。


テーブルで、新聞を読んでいた慧太君は、あたしに気づくと、顔を上げた。


「おはよう」


あたしは、小さな声で「おはようございます」と呟いた。


慧太君は、あたしを椅子に座らせると、冷たいミルクティーを出してくれた。


「久しぶりだね、エリカちゃん」


甘い、甘いミルクティーを飲みながらあたしは思った。


ああ、あたしのことをエリカちゃんって呼ぶのは、そう言えばこの人だった。


左手の傷が、ずきりと痛んだ。

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