花の名前
「朋夜の葬式で会ったよね」


慧太君は、さらりとそう言うと、あたしの顔を見た。


返事に困った。


あたしは、あの日のことを断片的にしか覚えていないのだ。


母と、トモのお母さんに抱えられるようにして出席した告別式。


泣いている、友達。のぼっていく、煙。


桜の、花びら。


あの時、トモの遺影を持っていたのは慧太君だったような気もする。


慧太君は、そんなあたしを察してか、それ以上深くは聞かなかった。


「手、痛くない?」


彼は、あたしの左手に視線をやると、聞いた。


「ちょっと痛い」


あたしは、そう言うと少し笑った。


慧太君は、やっぱりトモに似てるなぁと思った。
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