花の名前
慧太君が、「自由に読んでいいから」と言っていた本棚を、すみから見ていくことにした。


海洋学を勉強している人だけあって、海に関する本がたくさんあった。


あとは、ファッション雑誌と、文庫本が何冊か。


クジラの生活を追った写真集もあった。


最後の段の端で、あたしの手が止まった。


ビニール袋に包まれた、板のようなものがあった。


たくさんの本に囲まれて、それだけが異質な存在だった。 


人の物を、勝手に見ちゃいけないかなぁ、と思ったが、結局好奇心のほうが勝ってしまった。


おそるおそる、袋を開ける。


透明なビニール袋の中には、布に、丁寧に包まった何かが入っていた。


それを目にした瞬間、あたしはものすごく後悔した。


< 37 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop