花の名前
「エリカってね、花の名前なんだよ」


そう得意気に言う、幼かったあたしと、それを興味無さそうに聞き流していたトモを、懐かしく思った。


両方の瞳から、涙が溢れ出して、止まらなかった。


あたしは、たまらず、そのキャンバスを抱きしめた。


ピンク色の、釣り鐘のようなエリカの花。


そこに、点々と、茶色が混じっているのに気づいたのは、そのすぐ後だった。


その茶色い染みは、よく見ると、血のようだった。


エリカの花にへばりついている、茶色い血。


キャンバスの後ろを見ると、トモが亡くなった日の日付が書かれていた。


それで、あたしは確信した。


この絵は、最後までトモと一緒にいたんだ。
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