花の名前
また、取り残されるの?


トモが死んでしまった時の様に。


いなくなるの?大切な人が。


あたしの前から消えてしまうの?


あんな思いは、二度と嫌だった。


あんな悲しい思いは、絶対に嫌だった。


「慧太君」


もう一度呼びかけると、彼は、口を開いた。


「エリカちゃん、お願いがあるんだ。彼女の、子供に、代わりに謝っておいてくれないかな。
大人の勝手で、ずいぶんかわいそうなことをしちゃったから」


もう、目は開かないようだ。


最後まで自分を責め続ける彼を、気の毒に思ったけれど、それは、あたしには出来ない仕事だ。


だって、あたしも、もうすぐトモのところへ行くんだもの。


ごめんね、という気持ちを込めて、彼の手を、ぎゅっと強く握った。
< 46 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop