花の名前
彼の部屋で、自分の荷物をまとめる。


あれ以来誰も入っていないらしく、床に、錠剤の瓶と、お酒の缶が転がっていた。


まとめて燃えないごみに出すことにした。


トモの、最後の作品は、あたしが貰うことになっていた。


あの絵を見たことを、病院で会ったトモのお母さんに告げると、お母さんは、小さく微笑んで言った。


「あの絵はね。いつかエリカちゃんが貰ってくれたらいいなって思ってたの」


だけど、エリカちゃんにとって、朋夜は忘れなきゃいけない人かなって思ったら、なかなか言い出せなくて。


と、お母さんは、悲しそうな顔で言った。


「忘れられていく者と、忘れなきゃ生きていけない者と、どっちがどれだけ辛いのかしらね。」


あの日、病院の窓ガラスに映った、彼女の横顔を、あたしは一生忘れないと思う。
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