炎獄の娘
その時、室の扉が開いた。
「あなた! 子どもたちに何を話されてますの?!」
カレリンダだった。アルフォンスは仰天した。伏せっていたのを、様子を聞いてそのまま駆け出してきたらしく、彼女は寝着で裸足のままだったからだ。
「何って、アトラウスのことを……」
「子どもたちに重荷を負わせるおつもりですの! わたくしたちの話にも耳を貸さないような子が、すんなり心を開く筈もありません。傷つくのは、ファルとユーリィですわ!」
「お母さま! どうしたの?」
ふたごは常にない母親の取り乱しようにびっくりして目を丸くしていた。母が、父にこんなに責めるようにものを言うのも、聞いたことがない。
「そんなこと、やってみなければわからない。いったい本当にどうしてしまったんだ、きみは?」
「やらなくてもわかりきっていることですわ。ファルとユーリィを、あの子に近づけないで! あんな冒涜を吐くなんて、あの子、呪われているんだわ。だから、あの姿……」
「いい加減にしないか!」
遂にアルフォンスもかっとなって妻の手をぐいと掴んだ。
「きみがそんな事を言うなんて、いったいどうした事なんだ! おい、誰かイルーラを呼べ! 奥方を寝所へ連れて行って安眠茶を飲ませろ!」
カレリンダの姿に驚いた使用人たちは皆、見てはいけないと姿を隠している。苛立ってアルフォンスは侍女長を呼んだ。
「お母さま、どうしたの、お母さま?!」
ファルシスとユーリンダはカレリンダに縋り付いてわあわあ泣いている。両親が言い争う姿を生まれて初めて目にしたのだ。カレリンダは何かに取り憑かれたように、
「わたくしの子どもたちを連れて行かないで!」
と叫び続けている。
「大丈夫だ、今日はもうどこへも行かないから!」
正気に戻そうと妻の肩を抱きながらアルフォンスは、カレリンダはシルヴィアの死に様の衝撃で、母性本能が暴走しているのかと思い始めた。
「子どもたちは大丈夫だよ。ルルアに守られているんだから。聖炎の神子の子どもなんだから。心配しなくていいんだ。ちょっと明日、ふさぎ込んでいるいとこに会いに行くだけだから」
ゆっくりと優しく言い聞かせられたその言葉に、カレリンダの瞳に少し光が戻った。
「ほんとうに……?」
「ほんとうだとも。わたしが、ファルとユーリィを悪い目に遭わせるとでも思うのか? そんなにわたしを信用していないのか? わたしにとって何よりも大事なのは、きみと子どもたちだという事くらい、言わなくても解っているかと思っていたが」
「ああ……そうね、そうね。ごめんなさい、アルフ……わたくし……ただ心配だったの。そうね、あの子は子どもたちのたった一人のいとこですものね。助けてあげなくてはいけないわね……」
そう言うと、カレリンダはふっと意識を失い、夫の腕の中に崩れ落ちた。
「お母さま! お母さま!」
泣き喚く子どもたちを、アルフォンスはしぃっと制した。
「大丈夫だよ。お母さまは疲れて眠ってしまっただけだよ」
そう言うと、アルフォンスは妻の身体を抱え上げた。
「明日になれば、いつものお母さまに戻るよ。そして、みんなでアトラウスのところへ行こうね」
侍女長がようやくやって来たが、もういいと言ってアルフォンスは自ら妻を寝所へ運んで寝台に休ませた。身体も神経もくたくただった。子どもたちは一応安心したらしく、普通に戻っている。自分の言葉通りになればいいがと願いながら、アルフォンスは休息の為に自室へ向かった。
「あなた! 子どもたちに何を話されてますの?!」
カレリンダだった。アルフォンスは仰天した。伏せっていたのを、様子を聞いてそのまま駆け出してきたらしく、彼女は寝着で裸足のままだったからだ。
「何って、アトラウスのことを……」
「子どもたちに重荷を負わせるおつもりですの! わたくしたちの話にも耳を貸さないような子が、すんなり心を開く筈もありません。傷つくのは、ファルとユーリィですわ!」
「お母さま! どうしたの?」
ふたごは常にない母親の取り乱しようにびっくりして目を丸くしていた。母が、父にこんなに責めるようにものを言うのも、聞いたことがない。
「そんなこと、やってみなければわからない。いったい本当にどうしてしまったんだ、きみは?」
「やらなくてもわかりきっていることですわ。ファルとユーリィを、あの子に近づけないで! あんな冒涜を吐くなんて、あの子、呪われているんだわ。だから、あの姿……」
「いい加減にしないか!」
遂にアルフォンスもかっとなって妻の手をぐいと掴んだ。
「きみがそんな事を言うなんて、いったいどうした事なんだ! おい、誰かイルーラを呼べ! 奥方を寝所へ連れて行って安眠茶を飲ませろ!」
カレリンダの姿に驚いた使用人たちは皆、見てはいけないと姿を隠している。苛立ってアルフォンスは侍女長を呼んだ。
「お母さま、どうしたの、お母さま?!」
ファルシスとユーリンダはカレリンダに縋り付いてわあわあ泣いている。両親が言い争う姿を生まれて初めて目にしたのだ。カレリンダは何かに取り憑かれたように、
「わたくしの子どもたちを連れて行かないで!」
と叫び続けている。
「大丈夫だ、今日はもうどこへも行かないから!」
正気に戻そうと妻の肩を抱きながらアルフォンスは、カレリンダはシルヴィアの死に様の衝撃で、母性本能が暴走しているのかと思い始めた。
「子どもたちは大丈夫だよ。ルルアに守られているんだから。聖炎の神子の子どもなんだから。心配しなくていいんだ。ちょっと明日、ふさぎ込んでいるいとこに会いに行くだけだから」
ゆっくりと優しく言い聞かせられたその言葉に、カレリンダの瞳に少し光が戻った。
「ほんとうに……?」
「ほんとうだとも。わたしが、ファルとユーリィを悪い目に遭わせるとでも思うのか? そんなにわたしを信用していないのか? わたしにとって何よりも大事なのは、きみと子どもたちだという事くらい、言わなくても解っているかと思っていたが」
「ああ……そうね、そうね。ごめんなさい、アルフ……わたくし……ただ心配だったの。そうね、あの子は子どもたちのたった一人のいとこですものね。助けてあげなくてはいけないわね……」
そう言うと、カレリンダはふっと意識を失い、夫の腕の中に崩れ落ちた。
「お母さま! お母さま!」
泣き喚く子どもたちを、アルフォンスはしぃっと制した。
「大丈夫だよ。お母さまは疲れて眠ってしまっただけだよ」
そう言うと、アルフォンスは妻の身体を抱え上げた。
「明日になれば、いつものお母さまに戻るよ。そして、みんなでアトラウスのところへ行こうね」
侍女長がようやくやって来たが、もういいと言ってアルフォンスは自ら妻を寝所へ運んで寝台に休ませた。身体も神経もくたくただった。子どもたちは一応安心したらしく、普通に戻っている。自分の言葉通りになればいいがと願いながら、アルフォンスは休息の為に自室へ向かった。