炎獄の娘

「……殿下」

 これまで沈黙を貫いていたエクリティスが声をかけた。

「なんだ」
「殿下には、お二人を言い負かすのはご無理ではないかと思われます」
「おまえまでそんな事を言うのか!」
「さすがエクリティス、話が解るわね」

 エクリティスは、他家の公爵である二人を心から信用した訳ではない。彼にとってはアルフォンスの安全が何よりも大事である。危険な秘密をアルフォンスと共有する者が増えれば、それはアルフォンスが抱える危険を減らす事に繋がるのではないかと思った。もしもこの二人が――特にリッターが、アルフォンスに害を与える行動に出たら、自分が命を賭して主を護るだけだ。

 だが、アルフォンスはエクリティスのその決意には気づかなかった。腹心の部下までがそう判断するのならば、二人を連れてゆくしかないのだろうと思った。

「何という夜だ、全く前代未聞だ!」

 とかれは小さく呟いた。
< 51 / 67 >

この作品をシェア

pagetop