炭酸アンチヒーロー番外編
「……ひ、ヒロくん」

「………」



彼女の口から飛び出した予想外の言葉に、柄にもなく一瞬固まってしまう。

だけどすぐ、彼女に自分の表情を見られないよう、堪らず右手で顔を覆った。


──確かに、“名前で”とは言った。

けど、ヒロくん、って……そりゃ反則だろ。



「ど、どうしたの? ヒロくん」

「……もうだめだ、俺」



本当にこちらを気遣っているとわかるその声音に、やはりもれ出る深いため息。

気を抜けばゆるんでしまいそうな口元だけは右手で隠したまま、彼女を横目に見下ろす。



「俺、おまえのことがすきすぎて、どうにかなりそう」

「……!」



ついこぼれてしまった本音は、彼女に大きな衝撃を与えてしまったらしい。

俺を見つめたまま真っ赤な顔で口をパクパクと動かし、だけど結局、耐えきれないようにまたうつむいてしまう。

髪から見え隠れするその耳さえも、例にもれず紅くなっていて。


……落ちつけ、あせらずに、あせらずに。

彼女を愛しく思うたびそう無理やり自分に言い聞かせていることは、今はまだ、秘密だ。







君の名前、君の声
(ブレーキなんて、もうとっくに壊れかけだ)




2013/05/06
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