炭酸アンチヒーロー番外編
蓮見の家の前に到着したものの、なんとなくお互いに次の行動を起こせない。

つながった手の先を見ると、自分と同じように足を止めている彼女が、少しうつむきがちに押し黙っていて。

……別に、先ほどの悠介の言葉を気にしているわけではない。……わけではないが、俺としても、もう少し今より先に進みたいという願望はあるわけで。

でも、まあ、うん、それでも彼女の心の準備ができるまでは、ちゃんと待とうと思うから。

とりあえずはこの状況をどうにかしようと、俺は口を開きかけた。



「わ……っ」



けれどもそのときちょうど、強い風が吹いて。

小さく声をあげた目の前の少女の乱れた髪を見て、自然と笑みがもれた。



「蓮見、髪が──」



ぐちゃぐちゃだぞ。

そう言って、その乱れてしまった髪を直してやるつもりだった。

だけど続けようとしたせりふは、不意に顔をあげた彼女の視線にさえぎられ、のどの奥へと消える。

ドク、と、心臓が大きくはねた。



「………」

「………」



ああ、なんだこれ、やけに蓮見の目が熱っぽくて、頬が、赤く見える。

……ちくしょう、かわいいじゃねぇかよ!


あとはもう、ブレーキとか待つとか、何も考えられなかった。

そっと、彼女の熱い頬を両手ではさんで。……やさしく、くちびるを重ねる。

永遠にも感じられた数秒後、なけなしの理性を総動員して、名残惜しくも顔を離した。

キスの間も目を閉じていなかったのか、まんまるに見開かれた瞳が、俺を見上げている。
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