コイゴコロ
「……有紗サン?な…何しているの?」
教室に入ってきて引きつった顔をしながら一番に言ったセリフがそれの晴美。
私の周りには山になった本があり、そこにはマンガもあれば絵画本も画集もある。
その本を開いたりページをめくったりしながら、紙に鉛筆で絵を描いている。
「一つ荷が下りて心配事が減ったからか、作品のアイディアが浮かんできたんで、色々描いてみてるの」
サッサッと鉛筆を動かす私をジッと見た晴美は、
「ならこんな狭い机の上じゃなくて、美術室でやれ」
と文句を言い、席に座った。
すると、バックの中を漁ると一つのマイナーな雑誌を取り出す。
「まさか、有紗が芸術家の卵だとはね~。この雑誌にも紹介されてたよ。『今注目の天才』だって」
ちらっと晴美の見ている雑誌を見れば、コラムの一つに『佐々木有紗』の文字と、私が中学生の時にコンクールに出した絵の写真。
私は小さい頃から絵を描くのが好きだった。目に映るものを描くのも好きだが、自分の思いとか感情を絵に表し独自の世界を作るのが好きだ。
いつの間にか、絵を描くことが私なりの表現になり、その作品が人に見られるようになった。
そして、中学三年生で描いた『光』という作品をコンクールに出したところ、最優秀作品になったのだ。
「でもまあ、私から見たら有紗はネジが数本抜けているだけの女の子だけどね~」
「それって、馬鹿だって言いたいのかい?」
「大丈夫!馬鹿と天才は紙一重って言うじゃん!」
あ…馬鹿と言っているんですね。
私は密かに、賢くなれるおまじないを覚えようと誓った。