ちいさな恋
「ねえ、告白しなかったの?」
次の数学の時間、
ノートで問題を解きながら
わたしは問いかけた。
千羽は黒板の数式を見たままだ。
「しなかった」
やっと口を開いた千羽は
黒板に置いていた目を
そっとノートに落とす。
「なんだあ、つまんないの」
馬鹿なわたしは、こういう場合の
うまい切り替えし方がわからない。
妙にしんみりするのも嫌だった。
千羽はいつもの調子で
「うるっさい、黙れ」
とわたしを罵った。
少しだけ、ほんの少しだけ
悲しそうな笑顔が見えたのは
気のせいだったと思うほどに。
「もう、いいんだ」
千羽の笑顔が悲しそうなのは
気のせいなんかじゃなかった。