崖っぷちトレード
下に降りると、ふわりと味噌汁の香りがした。

台所を覗くと既に朝食が並んでいて、女の子の母親は僕の姿を見つけると、呆れ顔で「早く食べちゃいなさい。」と言った。


…そういえば、こんな風景は何年ぶりだろうか?

僕は今はもう会うことの叶わない母親をそっと思い出し、朝食を一口、二口と噛み締めながら食べた。


「ち・こ・くするわよ?」

…恐ろしい形相の母親に睨まれ、噛みしめられたのは結局最初の二口だけだったが。
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