彼岸桜
第一章
「まさか・・・・」と思う。
「でも」
会社名も、年齢からいっても、苗字も、やっぱりそれは彼なのではないかと思うと何か、懐かしい気持ちだけではない、胸をぎゅっと掴まれるような思いがする。
節くれだった、ところどころ老人斑の透けるような手が筆を走らせるのを見守りながら、「違う」「こんな偶然があるわけない」と言い聞かせるように思うけれども、そう自分に言い聞かせる度に、「でも」という言葉が頭をもたげて、生物のように彼女の胸の中で暴れまわるようだった。
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