彼岸桜
第三章

秋の彼岸を過ぎた頃、あの絵付け師の展示会のお知らせの葉書をポストに見つけた。友人達と出かけたが、タイミング悪しく絵付け師の先生には会えなかったけれど、年の頃が自分と似た女性が一人受け付けにいて、それはもしかしたら、彼の奥さんなのかもしれなかった。どことなく、会社に勤めていた頃に会ったような気がしなくもなかった。その画風を愛する人たちの中の一人として自分がまぎれていることが、ありがたくもありそして同時に少し残念な気もした。

秋色のショールをまた箪笥にしまい、春が待ち遠しいと思う日には桜色の帯揚げを締めた。昔も今も変わらず少しトーンの落ち着いた着物が好きだけれど、小物だけはいつもほんのり可愛らしい色や柄が好きだ。踊りを続けてきた人間にしては、ごくごく地味な部類だけれど、これが自分らしく心地よい。

お稽古場でも特に目立つ方ではなかった。ただお稽古の日になれば必ず遅刻せずにお稽古場に現れ、ひとこまのお稽古を終え、静かに片付けてお稽古場からいなくなる。受験で忙しい時もあったし、父親にもうやめたらどうなのかと言われることもあったけれど、そんな時は口を真一文字に結んでそうします、とも続けます、とも言わずにただ黙ってお稽古場に通い続けた。名前を取る時も、師範を取る時も、お稽古の時間が増えたらその分出かけていき、その時間が過ぎれば、黙って家に帰ってきて黙々と宿題をやったり、主婦としての仕事をする。

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