私たち。
瞬と優也(シン)

二人の過去

「優也、今日も俺んち来るよな?」
「あぁ」
それは、二人が中学生の時。
二人はいつものように、授業が終わったあとについて話していた。
瞬の両親は会社を経営していた。
その為、いつも家にいなかったので二人は瞬の家で遊ぶことが多かった。
優也とつるむようになって、瞬は派手になっていった。
服装はもちろん、言動も。
特に酷かったのは女遊びだ。
二人とも恵まれた容姿だったので、当たり前のようにモテた。
優也はそんな自分の容姿と、それ目当ての女を使っていた。
勿論、一晩限りの関係。
優也は女の、カラダ目当てで付き合っていた。
本気にするやつは馬鹿。
それ以外でのなにものでもない、と本気でそう思っていた。
しかし、その考えも瞬と出逢い、変わった。
瞬は、本気の付き合いしかしない。
まだ、経験もなかった。
二人の価値観の違いは、最初こそお互い戸惑ったものの、仲良くなるとそれが余計に良かった。
だが、瞬の周りがそれを許す訳もなかった。
両親は優也を軽蔑していたし、二人が仲良くしているせいで会社も信用を失いかけていたのも事実だった。
『現実』が二人の関係を認めなかった。
今では二人とも、嫌というほどにわかっているのに。
引き離されるなんて、絶対に嫌。
二人の意見は、同じだった。
そんなとき。
ピロリロリーン
瞬に、一本の電話がかかってきた。
「お袋?
なんだよ?」
「お父さんが、信一郎さんが、」
親父が交通事故に遭った。
その電話が、二人の運命を変えた。
瞬は、父親の搬送された病院へ向かうため近くのタクシーを拾った。
着いたときにはもぅ、遅かった。
たった今、死亡を確認したところだった。
「親父?」
何度問いかけてみても、返事はなかった。
返事の代わりに、虚しさだけが瞬の胸を埋め尽くした。
なんでだよ...。
聞きたいことはいっぱいあった。
だが、それより辛いことがあった。
「親父を轢いたのが...優也の親父が運転していた車?」
「えぇ...。
そうらしいの」
母の返答に、瞬はまだ半信半疑だった。
「嘘だろ?
そんなの、冗談じゃねぇ」
そう吐き捨てて、瞬はくわえた煙草に火をつけるために履いていたジーンズのポケットからライターを取り出した。
信じたくなかった。
そんなこと。
夢にも思ってなかった。
それより、瞬は知りたいことがあった。
「動機は?」
「え?」
「親父を殺った理由聞いてんだよ!!」
「実は、優也くんのお父さんにお金を貸してたの。
それを、返せないからって...」
「じゃあ、わざとってことか?」
事故だって。
わざとじゃないって、信じたかったのに。
母親は、ずっと黙っていた。
黙って、ただ泣いていた。
そんな母親を、見ていられなかった。
二人の間の沈黙が、俺には耐えられなかった。
「くそっっ」
移された、警察署の遺体安置所の壁を殴った。
何度も何度も、俺は殴り続けた。
....そんなことをしても何も変わらないと、頭ではわかっていてもまだ整理できなかった。
当時中学生だった瞬には。
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