プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)
力が上手く入らない手でどうにかスマホを拾い上げ、ゆっくりと深呼吸してからもう一度留守電を再生した。
『──伸康から聞いただろうけど、来月結婚するんだ。彼女の事も紹介したいし、式前に一度帰って来ないか? いつでも帰って来られるように、お前の部屋はそのままにしてあるんだ。もし、帰って来るのが無理でも、式には出て欲しい。連絡、待ってるからな』
……俺の、部屋……。
「…………ッ!」
突然込み上げる吐き気に慌てて口元を押さえ、トイレに駆け込む。
あれから4年経っても、まだ俺を苦しめるのか。
風化しないにしても、もう大丈夫だと思っていたのに。
多分、家には入れても、部屋は無理だ。
あの部屋は……、ベッドも、床も、机も、アイツにいいようにされた記憶しか残ってない。
当時の俺は、アイツとの事を誰かに知られるのが怖かった。
ただされるがままに、アイツの言いなりになってた。
自由に使える大金も無ければ、逃げる当ても無い。
アイツの足音と気配に怯えてる日々だった。
そんな時に朧達と出会って……。
高校を卒業するのと同時に、逃げる様にしてあの家を出たんだ。
それっきり、たったの1度も家族とは会っていない。
家に近付いた事も無い。
全ては、アイツから逃げるため……。