プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)
「ヒメノさんて視力悪いんですか?」
「んー、まぁそこそこな感じ?」
「──そこそことか言ってる場合じゃないだろ」
適当にはぐらかしたつもりだったけど、いつの間にか近くに居た陣に頭を軽く小突かれた。
「出て行く時も段差に躓くし、ライヴ中も何かおかしいなって思ってたんだ」
「別に失敗とかしてねぇだろ」
ライヴハウスってのは、基本的に薄暗い。
壁も天井も床も、ほとんどの場所が黒で統一されてるし、通路はダウンライトの薄明かりしか無い。
舞台に出てしまえば照明が当たるけど、そこに行き着く迄は勿論暗い訳で。
うっかり段差に躓いたのを陣に見られていたとは……。
「本当に無いの?」
溜息を零しながら聞いてくる陣は俺のトランクを覗きこんで、それから辺りを見回した。
「始まる前にちゃんと片付けたんだけどなー」
トランクもロッカーも、その周辺も、幾ら探しても見つかる気配が無い。
財布や携帯が無くなるよりはマシだけどさ。