プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)
「──このまま帰らせてヒメノが怪我でもしたら、恭介さんが心配するよ」
「はぁっ!?」
ボソリと呟かれた言葉に、俺は思わず背後の陣を睨み付ける。
「なんで恭介が出て来んだよ」
「恭介さんは、ヒメノの事になると真剣だから」
「……っ」
揶揄うような言い方なのに、顔が熱くなる。
最近の陣は、時々そうやって俺を揶揄うんだ。
恭介の事を言われると、自分でも分からないけど無駄に反応してしまう。
知らん顔して否定する事が出来ないんだ。
これじゃ、逆に惚気てるみたいじゃねぇか!
それを知ってて、事あるごとに恭介の名前を出して来る陣がむかつく。
陣にも朔杜にも苛々しているせいなのか、トランクの鍵がうまく閉まらない。
俺がガチャガチャと音を立てていると、帰り支度を済ませた律が陣と並んで俺の後ろに立っていた。
「やっぱり、ヒメノさんと恭介さんって付き合ってるんですか!?」
「……ッ!?」
突然の問いかけに、俺は思わず律をキツく睨みつける。
「に、睨まないでくださいよっ! 別に俺、男同士とかそう言うのに偏見とか無いし。寧ろ、ヒメノさんの事好きだし」
「律! どさくさに紛れてお前は……!!」
「──……ッ!!」
陣の鉄拳制裁が律に下されたかと思うと、涙目になりながらも律は俺の手を取って「本気ですから」と本当にそうなのかふざけてるのかイマイチ分からない表情で告げて来た。
このまま面倒な事になっても嫌だから、何て言ってこの場を切り抜けようか考えていた時。
待ちくたびれた様子の朔杜が、大きな手で律の頭を鷲掴みにした。
「調子に乗ってんじゃねぇよ、ガキが。おいヒメノ、さっさと帰るぞ」
俺のトランクを奪うように取り上げると、朔杜はスタスタと歩き出す。