プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)
 
 駅ビルの3階にあるその眼科は、眼鏡屋と隣接しているからか処方箋を受ける患者で混み合う事が多い。

 待つのはキライだけど、他の店で買うより安いのは有難いよな。

 診察開始時間より少し早めに受付を済ませて待っていると、30分と待たずに呼ばれた。

 視力検査と診察を受けて待合室に戻ると、そこはたった数分で診察を待つ患者でごった返している。

 空いている席は勿論無く、俺は何と無く院内の掲示板の前に立つ。

 何気なくスマホを見ると、さっきのヤツから早速メールが届いていた。

 そのメールを開封した途端──


「──姫野さん、姫野恭介さん」


 画面を見るのを止めてジーンズのポケットから財布を出す。

 会計を済ませて処方箋を受け取った時、手から滑り落ちたスマホが足元に転がって行った。

 俺が拾うより先に、後ろに立っていた患者が拾ってくれて……。


「……っ!?」


 瞬間、俺の手から財布と処方箋が落ちる。

 差し出されたスマホを受け取る事も出来ず、立ち竦んでしまった。

 ここから早く立ち去りたいのに、金縛りにあったみたいに足が動かない。

 ソイツは静かに俺の落とした物を拾うと、スマホと合わせて差し出して来た。


「恭介」


 名前を呼ばれた瞬間、俺はソイツの手から差し出された物全てを奪い取って、転びそうになりながらもどうにか出入り口へと急いだ。

 けど……。


「──恭介、頼むから話だけでも聞いてくれないか」


 手動の自動ドアに阻まれて、逃げる事は叶わなかった。

 久し振りに聞くその声に、胸が苦しくなる。

 視界さえ揺らいで……。


「恭介!?」


 俺はその場に、倒れ込んでしまったんだ。
 


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