不完全な完全犯罪・霊感探偵瑞穂誕生【完全版】
 その時。
体が反応した。

俺は霊感体質だったのだ。

だから其処に何かがあることは解っていた。

だから、必死になって草むらを探した。


(――みずほ。一体何がある?)
俺はみずほの遺体を見つめながら、手は導かれる方向へ指し伸ばしていた。


そして……
やっと見つけた。

みずほの大事にしていた化粧用コンパクトが俺を呼んでいた。


高校の規則では化粧は禁止だった。

でも殆どの女生徒は学校帰りに化粧してから遊んだいた。


でもみずほは、口紅もつけなかった。
せいぜいほんのり香るリップクリーム位だった。

俺の唇にもほんのり香るリップクリーム。


みずほの移り香……

俺はそれを隠そうとして、唇を噛み締めた。




 そのコンパクトは、俺からの誕生日プレゼントだった。

叔父さんの仕事を手伝ったお礼と言うか、初給料で買った物だった。

みずほはそれで化粧をする訳でもなく、鏡の代わりに使用してくれていた。


学校では化粧は禁止。
だけどみんなこっそりカバンに忍ばせていた。
だから贈ったのだ。
それはみずほを大人の女性だと認めている証拠だと思ったらしく、大喜びしてくれた。


『瑞穂のためにうーんと可愛い女性になるね』
何時もそう言いながら。
何時か使えるその日を夢見るような目をしていた。


そして……鏡に写る俺に向かってウインクをしてくれた。

俺だけには解る鏡越し……俺達は本当にラブラブだった。


みずほの落ちていた近くの植え込みの中にあったコンパクト。

それが何を意味するのか?

それは死ぬ間際までみずほが見ていたと言うことだ。


俺はそのコンパクトを開けて愕然とした。


化粧パフの上の鏡面に、赤い口紅で言葉が……


《死ね》
と書いてあった。


(――やっぱり……

――自殺なんかじゃない!)

俺はもう一度、屋上を見上げた。

其処に集まっているクラスメートを見上げた。




 (――いや自殺か!?

――もしかしたら虐めによる……)

あいつらの顔を見て思った。

あいつらはただ平然とみずほの遺体を見下ろしていたのだ。


(――何かがあった。

――筈だ)

でもその何かが解らない。


俺の直感では、この死は自殺ではなかった。

ただ、それだけを信じたいだくなのかも知れない。




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