不完全な完全犯罪・霊感探偵瑞穂誕生【完全版】
 集団心理を巧みに利用した計画的殺人。

キューピット様の名前を借りて……

自殺させようとして、追い詰めたのだろうか。

では、みずほは何時言ったのだろうか?


『助けてー!!』
と……

携帯はその後で奪われたのか?
それとも……

みずほが堕ちて来る所で待っていて……

だから取り上げることが出来たのだろうか?


屋上にいるクラスメートに自殺の名を借りた殺人をさせておいて。


でも……


それにしては携帯はキレイなままだった。




 俺は有美を自宅まで送ってから、イワキ探偵事務所を訪ねた。


大通りから一本、中に入った道。
古い木造アパートの二階。

東側の窓に手作り看板。

《イワキ探偵事務所》
はあった。


借りてたワンピースを脱いでシャワーを浴びる。


悪夢を忘れようと頭をかきむしる。

それでも、周りに飛び散らないように気を遣う。


小さな浴室の窓を月明かりが照らしていた。




 (――俺のせいでみずほは死んだ!

――俺がレギュラーを狙ったために……

――俺がみずほを好きになったせいで……)

後から後から涙が溢れる。
今まで泣けなかった分も一緒に……


(――町田百合子はきっと橋本翔太のためだろう。

――そして福田千穂は、みずほから俺を奪うのが目的で……)


そのためにみずほがクラスメートの餌食にされた。


その事実を岩城静江にどのように伝えれば良いのか。

俺は考えあぐねていた。


小さなバスタブに身を屈めて入る。

涙が波紋となって広がった。




 一度泣くと癖になるのだろうか。
涙が後から後から止まらなくなった。

バスタブが溢れてしまうのではないかと思った。

それ程悲しみが溜まっていた。

胸が引き裂かれそうになっていた。

恋人が殺されたと言うのに涙の一つも零さない、薄情な男だと思っていたから尚更なのだろうか。


(――みずほー!!)
声に出して叫びたい。
何もかもかなぐり捨ててみずほの元へ行きたい。

俺は生きて行くことが恐ろしくなっていた。


(――なあ、みずほ。
俺どうしたらいい?

――どうしたら有美を助けられる?

――どうしたら、千穂を説得出来る?)

俺はみずほに救いを求めていた。

月明かりの照らす小さなバスルーム。


今日の俺はなかなか其処から上がることが出来なかった。
湯が冷めていることにも気付かずに、俺は其処にいた。




< 57 / 122 >

この作品をシェア

pagetop