不完全な完全犯罪・霊感探偵瑞穂誕生【完全版】
 有美をみずほみたいに死なせたくない。

千穂を人殺しにしたくない。

俺はそんなことばかり考えていた。


そんな時、やっとお風呂の湯が冷めていることに気付いた。


追い焚きのスイッチを入れ、湯船に肩まで浸かる。


(――ひとーつ、ふたーつ、みっつ……)
百まで数えて上がろと思いながら……
ふと窓を見た。

換気のために開けた隙間から射し込む月の光に、みずほの優しさが漂っているように思えた。


(――ごめんみずほ……
心配かけたね。

――俺頑張るから……

――絶対に有美を守ってみせるから……)

俺はこれ以上みずほに甘えてはいけないと思った。

みずほが安心して旅立つためにも……




 「あれっ瑞穂?」
俺の顔を見て泣いたのが判ったのか、叔父さんはそっと頷いた。


『瑞穂、悲しい時は思いっきり泣け』
葬儀の朝の叔父さんの言葉が脳裏によぎる。

だから、俺もそっと頷いた。

無言の時間の共有が二人の絆を強めるような気がした。




 「さっきの女の子だけど……。多分どっかで会った事があると思うんだけど、思い出せないんだ」
珍しく叔父さんが弱音を吐いた。


『記憶は探偵の命だ』
何時もそう言っていたのに……


叔父さんは暫く腕を組んで考えているようだった。


その時俺は
《イワキ探偵事務所》
のロゴの入った封筒を思い出した。


そのロゴは小さくて目立たないようにしてあった。

それは叔父さんの気配りだった。


お客様のプライベートな事を調査したりする探偵業。

それを全面に打ち出さないように配慮したのだ。


(――あー!
あの写真!)


俺は思い出していた。


有美が俺に見せた写真は、偶然先生の浮気現場に遭遇した時の物だったのだ。


(――グレーのスーツ……

――紺の上下…

――間違いない!)




 松尾有美はきっとずっと前から知っていたんだ。


俺が叔父さんの探偵事務所でアルバイトをしている事を。

女装して、叔父さんの恋人の振りをしてラブホに出入りしていることを。


だから此処を選んだに違いない。


「叔父さん解ったよ。あの子はきっと依頼人だと思うよ」


「依頼人? あの子がか?」


「あの子、松尾有美って言うんだ。この探偵事務所の封筒に写真が入ってた」

俺は松尾有美の所持していた写真が、ラブホで会った二人だったことを話した。




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