不完全な完全犯罪・霊感探偵瑞穂誕生【完全版】
 「確かに名前は松尾だけど……」
叔父さんは依頼書を確認ながら言った。


「もっと年上の筈だ。確認は保険証だったけど」


「気付かなかったの?」
皮肉を込めて俺は言った。


「面目ない」
すっかり悄げた叔父さん。


「お前と同じだ。きっと変装したんだよ。男が女に見えるんだ。化粧次第でどうにでも変われる筈だ」

肩を落とながら、言い訳を繰り返した。


俺は何時も
《イワキ探偵事務所》
のロゴ入りの封筒を目にしていた。
だから気付いたんだ。


クラフト封筒に同系色の小さなロゴ。
きっと普通の人だったら気が付かないだろう。
きっと有美も知らなかったと思う。

だから堂々と俺に見せられたのではないのだろうか?




 松尾有美の依頼は、恋人の素行調査だった。


「何でも、結婚を約束した恋人が最近冷たい。浮気をしているかどうか調査してほしいと言う依頼だった」


「その恋人って? もしかしたら……」


「お前には確か内緒だったな。その恋人と言うのが高校の先生だった」


「やっぱり。それは俺の担任だ」


(――あれは偶然じゃなかったんだ。有美が頼んで……)

俺は何が何だか解らなくなった。

それでも俺は、有美に悪意の無かったことを信じようと思った。


全ては、自分の父親によって引き裂かれた恋人同士のためなんだと……




 それなのに……
この時俺は感じた。

父親殺しの片棒を担がされたことを。


もしかしたら本当に、継母と先生の恋の応援だったのかも知れない。


先生が、あの日語ってくれた真実。

もしもそれを口実に、気に入らない父親を殺したのだとしたら……


俺はそれでも、有美を信じたかった。


でも、
浮気現場のツーショット写真が心臓発作に繋がったことは真実のようだった。


有美は俺と叔父さんにバレていないことも探っていたのだろうか?

そうだとしたら随分舐められたもんだ。

でも本当は、取り越し苦労であってほしいと俺は思っていた。




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