外道武士
思わず飛び退くようにしてまた一歩下がると、再びペキ、と。

また踏んだ。

今度は二匹。

背筋に走る怖気。

そう思っていたのも束の間、今度は素足の上を這われる。

ゴキブリ特有の、素早く肌を這う感触。

悲鳴が出て、飛び跳ねるようにその場を離れる。

なのに一歩歩く度に、ペキ、パキ、と。

ゴキブリを踏む感触。

硬い感触の後の、体液が溢れ出す嫌悪感。

視界の端を、素早く黒い物体が駆けずり回っているのがわかる。

床一面にいるのか?

鳥肌が立ち、両手で体を抱き締める。

ブゥンッ、と。

鈍いような羽音。

飛んでる。

ゴキブリが翅を広げて耳元を飛び交っている。

< 54 / 150 >

この作品をシェア

pagetop