外道武士
上の階に進むに連れ、落書きが増えてきた。

『お願いだから引き返して』

『嘘じゃないの、お願い』

切羽詰まった、本当に追い詰められた雰囲気が伝わる文字。

ここに来るまでに、この文字を記した者は『何人失ったのか』。

或いは『何度襲われたのか』。

もしかしたら肉体の部位すら失っているかもしれない。

その証拠に、床や壁には赤黒い染みが多く残っている。

滴る血のような、血塗れの足を引き摺ったような、血飛沫のような。

…油断ならない。

息を殺し、曲がり角を曲がる猛流。

そんな彼の目に、また壁の落書きが飛び込んでくる。

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