外道武士
突然背後から振り下ろされるような風切り音!

咄嗟に片手立ちの側転で回避する猛流!

振り返った彼が見たものは、両手に肉切り包丁を握り締めた女の姿だった。

白目を剥き、額に無数の血管を浮かび上がらせ、顔を歪め、顰め、口元から涎すら垂れ流しながら吠える女。

まるで新妻が身につけるような白いフリル付きのエプロンは、返り血に塗れている。

「うぅぅああぁあぁぁっ、うぁあぁぁあぁぁっ!あぁああぁぁああぁっ!」

まるではじめから言語など知らないかのように、呻き、喚き、吠える女。

彼女がこより。

嫉妬に狂うあまり、恋人に近づいた女を切り刻んだ挙句、人間である事を捨ててしまった『黒の者』だ。

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