外道武士
型などない。

ただ無闇に両手の包丁を振り回す。

振るった包丁が壁に当たり、コンクリートの破片を散らし、刃が毀れても全く意に介さない。

完全な気狂いだった。

包丁を振るった勢いで己の肌に傷がつく事さえ厭わない。

とにかく嫉妬の炎を吐き散らさなければおさまらない。

永遠に続く怒りを、両手の肉切り包丁に込めて叩きつける。

仰け反り、バック転し、時に刀で受け太刀しながら、猛流はその狂気の猛攻を凌ぐ。

正式な流派でも剣術でもないこよりの太刀筋は、全く軌跡を読めなかった。

なのに『黒の者』としての人間離れした怪力を得ているせいで、一太刀でも受ければ致命傷となる。

距離を置き、刃を左手の銀の指輪に擦り付ける猛流。

切っ先から鍔元まで、刃を滑らせ…。

「がっ!」

その途中で、彼は胸の人面疽の痛みで喀血した。

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