竹で矢を【短編】
数年後。明治二年の、ある日。
少年を卒業し、
立派な男……いや、 “武士” になった。
日本のてっぺんまで北上し、星空を見上げる。
「……かっちゃん。
俺はな、後悔していないぞ。
お前に出会えた事。
試衛館の門を、くぐった事。
武士の道に踏み込んだ事。
誠の旗を掲げた事。
ただの百姓だった俺らが、武士になれたんだ。
叶うわけがない夢に向かって、俺らはひたすら走り続けたじゃねえか。
お前の死に方を非難する野郎がどれだけたくさんいたとしても、お前と一緒に戦えて、良かった。
お前も他の奴らも、みんな死んじまったけど、どんな死に方をしても俺は、自分の信念を持って生きる事が出来たのならそれでいいと思ってる。
ここからが俺にとっての正念場だ。
だから、そっちから俺の死に様見ててくれよ。
お前の分も、他の奴らの分も、目一杯戦ってやるから。
それが、俺の最期の試練だ」
『われ壮年武人となって
名を天下に上げん──』
『われこの柵にありて退く者を斬らん』
『よしや身は 蝦夷が島辺に 朽ちぬとも
魂は東の 君や守らむ』
《生誕》天保六年五月五日
《死没》明治二年五月十一日
新選組副長 土方歳三