遊園地
デート

疎遠なふたり

「おはよう!」

このひとことが言えない。

何度も何度も言おうとしたし、昔はスッと言えたのに。

自分がどんどん違う人になっていくみたいで、最近なんかイヤだ。


「茜ちゃ~ん、オハヨ」

今井比奈。あんまし好きじゃない。

というか大嫌い。

でも、みんなに聞こえるように挨拶をされていて、つまり何かしら返さないとまずい。

しょうがないから、今井比奈に向かってにっこりと微笑む。

「今日比奈ね~、宿題忘れちゃったの~。学校ついたら見せてもらっていい?」

誰だか知らないけど、ほかのクラスの友達を連れている。どっちも、今井比奈よりぱっとしない子だ。強引に連れて来られたんだろう。一対一より、断りにくくなると踏んで。自分の望みを通すことには素晴らしく長けていて、それだけはちょっとうらやましい。私には、それさえ出来ないから。

「ねえ、いい?」

くやしいから、出来るだけゆっくりと、ごくわずかに、うなずく。

伝われ。とびきりニセモノの笑顔は、大嫌いの証だって。

「ありがと~。助かったぁ。じゃーねー」

イヤな奴。

本堂茜って、ホントに嫌な奴。


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