遊園地
それは、私にはオルゴールに聞こえた。

「勘がいい。リズムに身を任せてごらん」

長老は瞬也にも耳打ちをしてから、

「ふたりにひとつずつ、魔法をあげようね。」

そう言った。

不思議と、魔法が自分の中に住み始めるのを感じた。じんわりと、私の体が受け入れていく。新しい友達のように。

「トキヤには過去の魔法を」

いつのまにか、魔法陣のようなものが私たちの足元に浮かび上がっていた。

「アカネには交換の魔法を」

ずっと聞こえていたオルゴールがいちだんと早くなった。

いつのまにか私たちは歌っていた。

歌なんか下手だけど、そんなことは関係なかった。

あの魔女たちのアカペラは魔法だったんだ。

そう気付いた時、景色がかわった。

ここへ来た時よりもずっと心地よく。

見慣れた朝の風景。この公園を突っ切れば、校門はすぐそこだ。

<それは今朝だよ。トキヤの魔法が効いている>

頭の中で長老の声がした。

いつもより景色が低く感じるんだけど、と言いかけて、自分の口がぜんぜん動かないことに気付いた。足は勝手に歩いている。

<それは過去のトキヤであって、きみのものとして扱うことはできない>

公園を過ぎると、私がこちらを振り返っていた。

(……えーっ、わたし!?)

茜だった。正真正銘、本堂茜に会ってしまった。

(びっくりしたー…)

心臓がどきどきしている。

<過去のアカネの中にはトキヤがいるよ>

じゃあ、瞬也も相当おどろいているんだろう。

私は私が思っていたよりもずっとマヌケな顔をしていた。

マヌケというか、悩みなんかなさそうで、ほけほけ笑っているような。

もっと暗い顔をしていると思っていたのに。

今朝の私は何をしたっけ、と記憶を引っ張り出す。

そうだ。

イマイに会う前に、瞬也に会った。

それで、「おはよう」も言えずにそのまま曲がり角まで走っていってしまうんだ。

心臓のどきどきが早くなる。


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