Voice
第一章
「さようなら…」
真紀は息を呑んでその言葉を聞いていた。
朝から降る生暖かな雨が、男を包むように奪っていく。
男は一度も振り向く事は無く、真紀に背を向けたまま真っ直ぐ歩いて行く。
「‥‥まっ‥て……」
男は気付かなかった。
いつも勝ち誇ったように笑う真紀が、顔をぐしゃぐしゃにして泣いているのを、気付かなかった。
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