Voice
 
 
 
 
いくら失恋して泣き腫らしても、取り繕い働くのが社会人だ。


いつもよりも早く鏡の前に座り、泣き過ぎて浮腫んだ顔をマッサージして、目の下に出来た隈を隠すように化粧をする。


家を出たのはいつもよりも遅く、顔をマッサージするのに時間をかけ過ぎてしまい、おまけに何も食べていない体はなかなか前に進まない。

真紀が働く化粧品会社KJがある通りにやっと着けば、今度は辺りを気にしながら店へと向かう。

この大きな通りは真紀にとって肩身の狭い場所だ。自分が裏切り疎遠になってしまった元友人や元恋人も働く場所だからだ。
堂々と前を向いて歩いてるように見せながら、本当は顔を合わせる勇気は無い。

仕事場に到着すると挨拶しながらロッカーに荷物をしまう。
晴れない気持ちを溜め息で追い出すと売り場へと向かう。


真紀が働く職場は他のKJ店とは違い小さく、社員も真紀と店長の篠田美佐子以外はパートしかいない。パートと言っても長年働いている為、仕事は真紀よりもテキパキとこなしてしまう。


 
< 7 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop