Voice
長年働くパート従業員になかなか頭が上がらないのは今更始まったことではない。
給料も保障もパート従業員よりもいいことが負い目となって、この仕事場で話せるのは店長の篠田だけ。
「おはようございます」
「おはよう。北見さん、ちょっといい?」
「はい」
篠田から呼ばれハタキをレジの脇に置くと、パート従業員の迫田に軽く頭を下げて事務所に向かう。
篠田は真紀に座るように促し、簡易椅子に腰を下ろすと篠田も座った。
心なしか篠田の表情が柔らかいようにも見えて、緊張していたが悪い事では無いだろうと安心する。
「あのね、結婚することになったのよ」
「え?…おめでとうございます!」
「ありがと!…それでね、彼の転勤について行くから会社を辞める事にしたの」
「そうなんですか…」
急な話でなかなか頭がついていかない。仕事場に篠田がいなくなれば益々肩身が狭いと憂鬱にもなってくる。
おめでたい話を聞いたのに、暗い気分になって篠田を見詰めた。