ボレロ - 第二楽章 -

2. audace オダーチェ (大胆に)



家柄はそう古くもない我が家だが、庭には少々自信があるのだと、

祖父がまだ幼い私によく話していた。

初代が起業し事業が成功すると屋敷を構えたのがこの土地で、かなりの敷地を

有することが出来たことから、いかに成功したかがわかるというもの。

繊維を扱うのだから、それに見合う屋敷をと建造されたのは洋館で、それまで

着物姿で通していた祖母も洋服に着替え、

「屋敷の主の夫人にふさわしい格好になるようになんて、

無理なことをおっしゃるおじいさまだったのよ」 

と祖母の昔話もよく聞かされたものだ。

当時としては長身の女性で、着物はもちろん洋服も見事に着こなしていたが、

姿勢の良い人であったためスーツ姿は格別映え、靴も常にかかとの高いものを

好み、美しく装う術に長けていた。

孫の私の目から見ても美しい人で 

「お洒落は、決して手を抜いてはいけないのよ」 と教えてくれたのは

祖母だった。



祖父が力を入れたのは屋敷だけでなく、シンメトリーに配された庭園は屋敷の

バルコニーから見ると自慢したくなるほど美しく、四季折々の花が咲き、

花木を手入れする職人の出入りは年中絶えない庭である。

その庭が、数日前からいっそう賑やかになっていた。

古くから庭の管理を務めてくれている北園さんが 若い庭師を引き連れて

手入れをしてくれている。


「須藤のお家を知っていただくために、お庭にみなさまをお招きして、

季節の花を楽しんでいただく会なのよ」 


とは母の言葉だったが、よくよく聞くと、私へ縁談が持ち込まれた男性を

招待するそうだ。


「お庭にお客様をお呼びするんですもの。

この季節の最高の状態を見ていただきたいわ」 

と力の入れようだ。

園遊会じゃあるまいし……と私が皮肉をこぼすと 「アナタのためですよ」 

と母から厳しい声がした。

仕組まれたパーティなんて何が楽しいものか。

乗り気のしない私の気持ちなどかまうことなく、母は準備に余念がない。

「お色は控えめに、でも、華やかさも忘れずにね」 と、私のドレスへの

注文も、私以上に熱心だった。




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