ボレロ - 第二楽章 -
『縁談を有利に、どちら様にも失礼のないようにするための配慮なんです。
って言い切るのよ。
でもね、候補はほぼ櫻井さんに決まっているの。
それなのに、娘と男性陣を会わせる会を設けて体裁をつくろうなんて、
母には呆れたわ』
シンデレラタイムにかかってきた宗の電話に、私は不平不満を漏らしていた。
『楽しそうな会じゃないか。どんな男が婿候補だったのか一望できるぞ』
『ひどいコト言うのね。私の身にもなって考えてみてよ。
とっても気が重いのよ。みなさんを騙すのも同じですもの』
『騙すとか体裁を繕うとか、そんなことはどうでもいいじゃないか。
要するにメンツが立てばいいんだよ』
『そうだけど、思わせぶりなパーティーを開いて、
さも興味がありそうな顔をするなんて、真剣に申し込んで下さった方に失礼よ』
『珠貴にその気持ちがあればいいんじゃないか』
宗が海外出張から帰国して数日振りに声を聞かせてくれたのに、私は小言を
並べていた。
これまであまたの縁談があったのだが、彼らを一堂に集めてそれぞれに
顔合わせをし、検討のうえお返事を差し上げますという、なんとも失礼極まり
ない会を開こうというのだ。
まさか彼らに 「実は櫻井様にほぼ決まっています」 とは言えず、
それぞれに気を持たせる言い方をして集まってもらう。
その後、残念ですが……とさも心残りがあるような返答をするのだ。
「お庭を見ていただきたくてみなさんをお招きするんですもの。
なんの不都合もないはずよ」
と、母は自分の思いつきに酔っていた。
『だけど、騙すことには違いないでしょう』
『まるで竹取物語の姫だな。
彼らに無理難題を与えて、櫻井氏には先に答えを教えればいいじゃないか。
妙案だろう』
彼はもっと真剣に聞いてくれるのかと思ったのに、まるで人ごと。
私がパーティーで苦労する姿を想像して、楽しんでいるようにもとれる返答を
してくる。
『もういいです。宗がもっと親身になってくれると思ったのに、
私の思い違いだったみたいね。
出張でお疲れででしょう。今夜は早くおやすみになって』
『そうカリカリするなよ。
近いうちに時間が取れないかな、渡したいものがある』
『明後日の夜ならあいてるけど……あっ、あれね』
『出張先で教えてもらったブランドでね。
地元ではかなり評判になっているらしい』
明後日 『筧』 を予約しておくよ……と、私のイラつきなど解さないように、
のんびりとした返事が返ってきた。
私の仕事に役立つからと、海外に出向くと必ずそこのトレンドのジュエリーを
探して、毎回のようにプレゼントしてくれる。
それは嬉しいけど、いまはそれどころじゃないというのが私の気持ちで
「動き出すときがきたって言ってたじゃないの。どうなったのよ」
先に携帯を切られたことも腹立たしく、部屋に響くほどの声で握り締めた
携帯に文句を放った。