ボレロ - 第二楽章 -
珠貴の消息を知る櫻井祐介と接触したのは、彼女が姿を消してから三日目の
ことだった。
知弘さんに連れられてやってきた櫻井は、私の姿を認めると全身で警戒した。
隣りにいる私に良く似た潤一郎を見て当惑した表情が加わり、潤一郎の身分を
聞くとさらに顔を曇らせた。
「須藤さん、どういうつもりですか。
捜査機関の介入は彼女の身の危険に繋がります。それにこの顔ぶれは」
「正式な依頼ではなく、潤一郎君には内々に協力していただいています。
それから、こちらのみなさんは珠貴につながる方ばかりですから」
「そういわれても……」
櫻井は私たちの顔を見渡すと、身内の揉め事に他人が首を突っ込むなとでも
言うように眉を寄せた。
私のほかに、潤一郎と紫子、狩野と佐保さんもいる。
櫻井が知らない面々が、事件のあらましを知っているのが不愉快だったようだ。
「私、珠貴さんとは、学生時代から親しくさせていただいております。
先輩でもあり大事な友人です。
櫻井さん、どうか私たちに力を貸していただけないでしょうか」
「お気持ちはわかりますが」
「珠貴さんに、つい先日もお目にかかったばかりでしたから、
叔父さまからお話をうかがって、それは驚きました。
新しいお仕事も順調で、新たな分野へも幅を広げるのだとおっしゃって、
生き生きとしたお話し振りでしたのに、こんなことになるなんて……
いま、どれほど不安でお過ごしでしょうね。
そう思うと胸が苦しくなってまいります。
私にできることはなにかと考え、夫に協力してもらい、
みなさまにもお集まりいただきました。
櫻井さん、今こうしている間にも、珠貴さんは辛い目にあっているかも
しれないのですよ」
私の依頼ではなく、紫子のつながりでみなが集まったのが意外だったようで、
紫子の必死の願いに櫻井も迷っているのか、考え込んだ顔が険しさを増す。
「櫻井さん、あなたの持っている情報と私たちが入手した情報をあわせれば、
より早く解決できるはずだ。
一刻も早く彼女を救い出すことが先決じゃないのかな」
「そうだろうか。彼女を救い出すためには相手を刺激しないことだ。
条件が整えば必ず返すと約束してくれた。
もしこちらが約束を違えることになれば、珠貴さんの身が危ない。
近衛さん、あなたは何もわかっていない。
こんなに大勢で騒ぎ立てては、解決するどころか、
意見もまとまらずこじれる一方じゃないか。浅はかですね」
「わかっていないのは櫻井さん、あなたの方だ。相手は犯罪組織だ。
そんな奴らがまともに約束を守るとでも思ってるのか。それこそ笑止千万だね」
「なんだと」
つかみかからんばかりの櫻井を止めたのは潤一郎で、私の肩をつかんだのは
狩野だった。