ボレロ - 第二楽章 -
緊急を要するため、優先順位を先に検査を依頼したいと無理な申し出だったの
だが、
「すぐに検査に入ってくれるそうです。
借りは大きいぞと脅されましたが、口で言うほど本気じゃないでしょう」
「礼は充分にさせてもらうと伝えてくれ。
今回の検査で異常なしと結果が出れば正式な書類も必要だ。それは?」
「了解だそうです」
「そうか。この騒ぎをひっくり返す資料の提出となれば、
検査機関の名前も大きく出るだろう。
山本さんにとっても悪い話じゃないはずだ」
「山本さんもそんなことを言ってました。
研究所の名前を売る絶好のチャンスだって。
研究機関の宣伝なんてのは、滅多にできないそうですから」
「それは好都合。どちらにも得がある」
「ここで恩を売っておけば、損はないですね」
「言うじゃないか」
事が上手く運んでいる兆しが見え、私も平岡の口も滑らかだった。
もてるものすべてをつぎ込んで、必ず見つけ出すんだとの意気込みがあった。
それは私だけではない、櫻井も同じで、彼は彼にしかできない動きで事件解決
へと全力で向かっている。
「しかし、よく櫻井氏が協力してくれましたね。
近衛宗一郎と手を組むなんて、彼には考えられないことだったんじゃ
ないですか」
「それはこっちも同じだ。
まぁ、互いに歩み寄った方が得策だと判断したまでだ。
櫻井の顔を見るたびに、胸くそ悪い思いをするのは変わらないよ」
「櫻井氏も、先輩と同じ事を思ってるでしょうね」
平岡が気の毒そうな顔を見せながらも笑っている。
櫻井の名前が出るだけで不愉快になるが、この際仕方がないと割り切ることに
した。
彼のもたらした情報から、もうすぐ珠貴の居場所が知れるはずだ。
その後、どう動くのか。
それを、須藤家の面々に伝えるのも櫻井の役目だった。
昨夜、各々の役割が決まった。
狩野と佐保さんは、珠貴がいるであろうホテルを突き止めることに専念する。
わかり次第、ホテルの従業員を装い彼らとの接触を図り、相手方の様子を探ろう
というものだった。
「いつもはライバル関係ですが、こういう事態においては強い結束があるのが
我々の業界です。
犯罪組織が上得意様では困りますからね。協力は惜しまないはずです」
「女性従業員なら相手も警戒を緩めるでしょうから、私がまず出向きます」
狩野と佐保さんの連携で、犯人側との接触が可能になりそうだ。
知弘さんは 『SUDO』 内部の動きをつかみ、取引先の動向を探ることになっ
ている。
事件を企てた犯人と社内の誰かが繋がっているはずだというのが、潤一郎の
見解だった。